高層ビルでオシャレに勤めたかった

先日、某大都市の中心、高層ビルの上層階へ足を踏み入れる機会があった。ちょうど昼頃で、ランチを食べに出てきた一流企業のサラリーマンとすれ違った。冷房の効いた部屋で一日過ごすだろう彼らは、オシャレなジャケットを身に着け、OL達と同じ上層階にある俺からすればランチには高すぎるだろうと思われる価格帯の店へと消えていった。

今の俺は、零細企業の平社員。日本各地のどちらかと言うと田舎ばかり廻っている人生。誰しもが考える、もし俺の人生が違う道だったら。もしかしたらオシャレな高層ビルで働き、高層マンションでリッチに暮らす人生もあったかも知れない。

タラレバの思いはきっと誰にでもあると思う。50年近くも生きてきて、若い時にはきっとそういう別の人生への分岐点が用意されていてはずなのに、俺が気づいて選択したこと、気づかず選択しなかったことの結果が今の人生。

金がないから安い腕時計で満足してるんじゃないか。金が無いから鄙びた温泉と安い地元の居酒屋で我慢してるんじゃないか。本当は金があれば、ベンツに乗り、ロレックスを付けて銀座へ繰り出したいんじゃないのか。

今更取り返しのつかない人生だし、今から変えるのは若い時以上に大変。好むと好まらずと関わらず、今の立ち位置を受け入れなくちゃいけない。

俺が思うのは、嫁さんも同じことを考えているじゃないのかってこと。俺と結婚しなければ、若い時の美貌でもっと経済力のある亭主を捕まえられたのじゃないのか。俺が知らない、もっと別の選択肢を持っていたかも知れない。

世の中には考えてもどうしようもない取り留めのないことだらけ。そんなことを考えたって、無駄でしかないけど、でもふと高層ビルで見た俺の憧れた生活を目の前に見せつけられて、そんなことを考えた。